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ダンジョンの奥深く、宝箱に上半身を丸ごと飲み込まれ、足をバタつかせながら発せられるあの情けない声。
「暗いよー!怖いよー!」
アニメ『葬送のフリーレン』において、もはや様式美とも言えるこのシーン。
多くの視聴者はこれを「ドジっ子属性の演出」や「コミカルなギャグ」として受け取って笑うでしょう。
しかし、かつて大学で分子構造を睨みつけ、今は店頭で顧客心理を分析している私の目には、これは単なるギャグには映りません。
ソウカナ化学系大学卒業したのに販売員をやってるアニメ考察ブロガーのソウカナだよ!



ソウカナ氏の知識の穴を埋めるアシスタントのポゥです
フリーレンは千年以上生きる偉大な魔法使いです。
論理的思考の塊である彼女が、なぜ「判別魔法(ミークハイト)で99%ミミック(人食い箱)」と出ている宝箱をわざわざ開けるのか?
今回は、行動経済学の「プロスペクト理論」をメスとして、フリーレンの非合理的な行動ロジックを解剖します。そこには、私たち現代の大人にも通ずる「確率の罠」が潜んでいました。



1%とがもしこれだったらと思うと開けずにはいられないよね



ついつい1%もあるって思ってしまうんですよね。
フリーレンの「暗いよー怖いよー」はなぜ繰り返されるのか?





まず、検証すべき事象を整理しましょう



画像のフリーレンの入り方が逆なのが気になるんだけど( ´艸`)
物語のあらすじはご存知の通りかと思いますので割愛しますが、問題のシーンの条件は常に一定です。
ここで重要なのは、彼女が結果に対して本気で嫌がっている(ように見える)点です。わかっていて飛び込み、結果として嘆く。
化学実験に例えるなら、「この溶液に水を加えると99%の確率で爆発して火傷するが、1%の確率で金(ゴールド)が生成される」とわかっているビーカーに、防護メガネもなしに水を注ぐようなものです。
通常、理性的判断ができる人間(あるいはエルフ)なら、期待値計算をして「回避」を選択します。しかし、彼女は何度でも繰り返す。ここには、従来の経済学が前提とする「合理的経済人」のモデルでは説明がつかない歪みがあります。



ツインテールがとんでもないことになってることもあったし…



結局助かるとはいえ魔物の口の中に入るのはきぶんわるいでしょうね
行動経済学で読み解く「ミミック・ギャンブル」


この行動を説明するのに最適なのが、ダニエル・カーネマンらが提唱した「プロスペクト理論(Prospect Theory)」です。
これは簡単に言えば、「人は利益を得る場面と損失を被る場面で、確率や価値の感じ方が歪む」という理論です。
「確率の加重関数」が引き起こす認知の歪み
プロスペクト理論の核心の一つに「確率の加重関数」という概念があります。
人は客観的な確率(数字としての確率)を、そのまま主観的な確率(心理的な重み)として受け取ることができません。



フリーレンにとっての「1%」は、数学的な0.01ではないってことだよね



彼女の主観的確率においては、これが10%にも20%にも膨れ上がって感じられているのです
宝くじを買う人を想像してください。
「1等が当たる確率は数百万分の一」と言われてもピンときませんが「誰かが必ず当たる」と言われるとどうでしょうか?



あぁ、当たるのは自分かもしれないと錯覚して宝くじ買っちゃうかもしれないなぁ



それと同じ心理効果が、千年の知恵を持つエルフの脳内でも起きているのです
「99%のミミック」を見ているのではなく、脳内で不当に巨大化された「1%の魔導書」だけを見つめています。



それはそれでなんかかっこいいけどね
損失回避性をも凌駕する「未知の魔導書」への期待効用
通常、プロスペクト理論では「損失回避性」も重要視されます。
「1万円得する喜び」よりも「1万円損する苦痛」の方が、心理的インパクトは約2倍大きいとされています。
本来なら、「頭を噛まれる物理的苦痛+暗闇の恐怖(損失)」は、回避すべき最大のリスクです。しかし、フリーレンの場合、参照点(Reference Point)が特殊です。
彼女にとって「既知の魔法」や「ありふれた財宝」は価値が低く(限界効用が逓減している)「誰も知らない魔法」こそが至高の価値を持ちます。
この場合、「1%の当たり(魔導書)」から得られる主観的価値(Value)が、数千年の寿命の中でインフレを起こしていると考えられます。
つまり、
(主観的当たりの確率 × 魔導書の喜び)>(主観的ハズレの確率 × 暗い・怖い・痛い)
という不等式が、彼女の中だけで成立してしまっているのです。



あぁこれは遅刻仕掛けても読書してしまう僕と一緒かも



そうで…す?いや、それはどうでしょうか
販売員の視点:ワゴンセールとミミックの共通点


私は長年、アパレルや雑貨の販売員として店頭に立ってきましたが、このフリーレンの行動「ワゴンセールの最終日」のお客様と同じ心理状態に見えます。
ワゴンの中には、売れ残りの不人気商品(ミミック)が山積みです。しかし、お客様は「この中に掘り出し物(魔導書)があるかもしれない」という、根拠の薄い期待に突き動かされて、必死に商品をかき分けます。



まれにほんとに掘り出し物もあるからねぇ



あとは実際の物よりも掘り起こすという経験が大事なのかもしれません
サンクコスト(埋没費用)と「ここまできたから」バイアス
ダンジョン探索には時間がかかります。そこに至るまでの「移動時間」「モンスター討伐の労力」は、経済学でいう「サンクコスト(埋没費用)」です。
回収不可能なこのコストを取り戻そうとするあまり、「ここで宝箱を開けずに帰るわけにはいかない」というバイアスが働きます。
この心理が、99%の危険信号を遮断します。
フリーレンが「暗いよー怖いよー」と言いながらも、脱出後にまた別のミミックを開けるのは、彼女が費やしてきた「膨大な時間(千年の旅路)」という巨大なサンクコストが、彼女を「引くに引けないギャンブラー」に仕立て上げているからとも言えるでしょう。



千年を背負ったギャンブラーとかかっこよすぎるわ( ´艸`)
化学的視点:活性化エネルギーとしての「好奇心」


少し視点を変えて、私の出身分野である化学(Chemistry)の概念も借りてみましょう。
化学反応が進むためには、「活性化エネルギー」というエネルギーの山を越える必要があります。
通常の状態(安定状態)から、新しい生成物(未知の魔法)を得るためには、高い山(リスク)を越えなければなりません。
フリーレンにとって、「ミミックに噛まれる」という事象は、反応の過程で一時的に生じる「不安定な遷移状態」に過ぎないのではないでしょうか。
「暗いよー怖いよー」という嘆きは、この遷移状態における「反応熱」の放出のようなものです。
吸熱反応において周囲から熱を奪うように、彼女はフェルンやシュタルクの時間を奪い(コストを払い)、結果として「虚無」という生成物を得ていますが、彼女の中では「反応を起こした(検証した)」こと自体に意味があるのです。
- 「もしかしたら、私の判別魔法の精度を誤認させるほど高度な隠蔽魔法が施された宝箱かもしれない」
- 「歴史の裏側には、そういう例外が存在するかもしれない」
科学者(研究者)が、99回失敗しても1回の成功のために実験を繰り返すように、彼女の行動は「ギャンブル」であると同時に、極めて純粋な「検証実験」なのかもしれません。



行動しなかった後悔の方が大きいもんね



そうです検証したという事実こそが大切なのです
結論:「暗いよー怖いよー」は探求者にとっての必要経費である
以上の考察から、フリーレンの「暗いよー怖いよー」は、単なるドジや学習能力の欠如ではないと言えます。
彼女があの暗闇の中で叫ぶ言葉は、恐怖の吐露であると同時に、確率の壁に挑み続ける探求者の魂の叫び(あるいは、単に引くに引けなくなったギャンブラーの悲鳴)なのです。
私たちも仕事や人生において「どうせ無理だ(99%ミミックだ)」とわかっていても、挑まなければならない局面があります。



もちろん、助けてくれるフェルンのような存在がいればの話ですが



そんな友達や仲間がいるってことが一番の財産だよね!
今回考察したような心理描写や、アニメでは尺の都合で省略されてしまった魔法の細かい設定、フェルンたちの冷ややかな視線の背景などは、原作においてより詳細に描かれています。
活字で読むことで、フリーレンの思考プロセスがより論理的(かつ非合理的)に理解できるはずです。

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