『薬屋のひとりごと』壬氏と猫猫のじれったい関係を徹底考察：すれ違う二人の恋の行方

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なんで壬氏と猫猫の二人ってこんなに「じれったい」の？？

『薬屋のひとりごと』が多くの読者や視聴者を惹きつけてやまない理由

その核心には主人公・猫猫（マオマオ）と、彼女を見出した美形の宦官・壬氏（ジンシ）の独特な関係性があります

その二人の関係はしばしば「じれったい」と評されますがそれには様々な理由があるのです。

交わるはずのなかった二人の出自と性格、関係を決定的に変えた数々の重要局面、そして彼らの恋路を阻む心理的・社会的な障壁を多角的に分析します。

本稿を通じて、読者が二人の恋の行方をより深く理解し、この壮大な物語を新たな視点で楽しむための一助となることを目指します。

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この記事は重大なネタバレが含まれますので原作をお読みで無い方はご注意下さい！！

関係の基盤：交わるはずのなかった二人の人物像

皇弟という最高位の身分を隠す男と、花街の片隅で育った薬師の娘。その出自も価値観も、本来であれば決して交わることのない対極的な存在です。

壬氏（ジンシ）：天女の貌（かんばせ）に隠された素顔と皇弟という正体

表の顔：後宮を管理する完璧な宦官

物語の序盤、壬氏は後宮を管理する権力者として登場します。

その容姿はこう称されるほど絶世の美貌

• 「天女の微笑み」
• 「花の顔（かんばせ）」

公称年齢24歳（実年齢は19歳）という若さにもかかわらず、彼はその立場と美貌を巧みに利用し、後宮内の秩序を維持しています。

彼の役割は単なる管理者に留まりません。

男子禁制の後宮において、その麗しい存在は妃たちの貞淑さを試す「試金石」としての役割も担っており、帝にふさわしくない妃を見つけ出すという密命も帯びています。

この完璧で優雅な宦官という姿は、彼の真の身分である「皇弟・華瑞月（カ・ズイゲツ）」を隠すための、計算され尽くした仮面なのです。

裏の顔：猫猫にだけ見せる独占欲と子供っぽさ

しかし、この完璧な仮面は、猫猫という規格外の存在を前にして、いとも容易く剥がれ落ちます。

壬氏の美貌に全く靡かず、むしろ虫けらやナメクジでも見るかのような視線を向ける猫猫の反応は、彼の計算を根底から覆しました。

猫猫の前での壬氏は、公的な姿とはまるで別人。

彼女が自分以外の男性、例えば武官の李白を頼ったと知れば、あからさまに嫉妬し落ち込みます。

また、蜂蜜を舐めさせようと悪戯を仕掛けたり、妃教育を扉越しに聞き耳を立てたりと、その言動は時に年齢不相応なほど子供っぽく、無邪気です。

壬氏のこの二面性は、単に隠された性格というわけではありません。彼の公的なペルソナは、他者がその外見に惑わされることを前提として機能する「鎧」です。

これにより、壬氏の最も得意とする対人戦略は完全に無力化されます。

彼は猫猫の気を引くため、もはや鎧を脱ぎ捨て、嫉妬深く不器用な素の自分をさらけ出すしかなくなるのです。

つまり、壬氏の「裏の顔」は、猫猫という特異な存在によって初めて表出を余儀なくされた、彼の本来の姿であると言えます。

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猫猫（マオマオ）：花街育ちの薬師が見る、歪で合理的な世界

恋に無関心、薬と毒に執着する異端の才媛

猫猫は、花街の妓楼「緑青館」で薬師として育ち、ある日人攫いにあって後宮に売られた17歳の少女です。

花街という色恋が渦巻く環境で育ったにもかかわらず、彼女は恋愛沙汰に一切の興味を示しません。

その探求心は異常なレベル。

自らの腕を毒蛇に噛ませたり、フグ毒を試したりと、目的のためなら自身の体を実験台にすることも厭わない「マッドサイエンティスト」としての一面も持ち合わせています。

この特異な性質と、養父・羅門から受け継いだ豊富な知識が、後宮で起こる数々の難事件を解決に導く原動力となります。

そばかすに隠した美貌と、面倒事を避ける処世術

これは花街で育つ中で、自身の容姿が原因で厄介事に巻き込まれるのを防ぐために編み出した、自己防衛のための処世術でした。

壬氏の正体や彼が寄せる好意に薄々気づきながらも、「面倒事は避けたい」という一心で深入りを避け、考えないようにする姿勢は、彼女のこの処世術が深く根付いていることを示しています。

それは彼女が育った環境で培われた、一種の生存戦略

愛が商品として取引され、男女間の醜い駆け引きが日常である花街で、彼女は恋愛という非合理的で予測不可能な感情が、人を不幸に陥れるリスクの高いものであると学習したと考えられます。

対照的に、薬と毒の世界は、明確な因果関係と法則に基づいています。正しい知識と手順を踏めば、結果は予測可能で、コントロールが可能です。

猫猫が恋愛を避け、薬毒の世界に安らぎを見出すのは、不確実で危険な「感情」の世界から身を守り、確実で合理的な「知識」の世界に生きようとする、彼女なりの自己防衛なのです。

壬氏の純粋で感情的なアプローチが彼女に響きにくいのは、この二人の根本的な世界観の違いに起因しています。

恋の萌芽から進展まで：関係性を変えた7つの重要局面

壬氏の一方的な興味から始まった二人の関係は、数々の事件や出来事を経て、ゆっくりと、しかし確実に変化していきます。

局面（イベント）	典拠（小説/アニメ）	関係性における意義
1. 出会いと初期関係	小説1巻 / アニメ1-2話	壬氏が猫猫の才能を見出し「利用価値」を感じる。猫猫は壬氏を「面倒な上官」と認識。
2. 間接キス	小説1巻 / アニメ12話	壬氏が初めて明確な好意を行動で示す。猫猫も初めて異性として意識し、動揺する。
3. 人工呼吸	小説3巻	緊急事態下で壬氏が猫猫の命を救う。二人の間に「守る・守られる」という強い絆が生まれる。
4. 「カエル事件」	小説3巻 / アニメ20話	猫猫が壬氏の正体（宦官ではない）を確信。壬氏は言葉で伝わらないと悟り、行動に移す覚悟を決める。
5. 嫉妬によるキス	小説5巻	壬氏の独占欲が爆発。恋愛感情が抑えきれないレベルに達したことを示す。
6. 求婚	小説7巻	壬氏が「妻にする」と宣言。二人の関係が結婚を視野に入れたものへと移行する。
7. 猫猫からのキス	小説13巻	猫猫が初めて自発的に壬氏へ好意を行動で示す。関係性が双方向になった記念的瞬間。

出会いと初期関係：「使える駒」と「面倒な上官」

壬氏はその並外れた知識と観察眼を持つ猫猫を「使える」と判断し、帝の寵妃である玉葉妃の毒見役として強引に抜擢します。

この時点での壬氏にとって、猫猫は後宮の複雑な問題を解決するための、興味深くも便利な駒に過ぎませんでした

一方の猫猫にとって、壬氏はその美貌をやたらと振りまきながら、次々と面倒事を押し付けてくる「暇人」で「粘着質」な上官という、極めて好ましくない印象からスタートしました。

意識の変化：間接キスと壬氏の粘着質なアプローチ

関係における最初の質的な変化は、猫猫が一度後宮を解雇され、花街に戻った後に訪れます。

このいわゆる「間接キス」は、壬氏の優雅な振る舞いと相まって非常に色っぽく描かれており、恋愛に疎い猫猫でさえも、その意味を理解し動揺を隠せませんでした。

この一件を境に、壬氏のアプローチはより個人的で執着的な色合いを帯び始め、猫猫も彼を単なる「面倒な上官」として割り切れなくなっていきます。

命のやり取りが生んだ絆：滝壺での人工呼吸

西都で命を狙われた際、壬氏は猫猫を抱えて追手から逃れるために滝壺へと飛び込みます。

滝裏の洞窟に隠れたものの、猫猫は水を飲みすぎて意識を失ってしまいます。

その時、壬氏は一瞬のためらいもなく彼女に人工呼吸を施し、命を救いました。

単なる興味や好意を超え、互いの命を預け合うほどの強い絆が、この出来事を通して二人の間に生まれたのです。

決定的瞬間「カエル事件」：壬氏の正体と猫猫の防衛本能

滝壺の洞窟での一件は、もう一つの決定的な変化をもたらしました。

脱出の際にバランスを崩した猫猫は、偶然壬氏の身体に触れてしまい、彼が宦官ではないという重大な秘密を知ってしまいます。

壬氏がこの機に真実を伝えようと試みるも、猫猫は「カエルを潰してしまったかもしれません」と必死にはぐらかし、意図的に話を逸らします。

壬氏の目的は、自身の最大の秘密を打ち明けることによる「自己開示と関係性の深化」です。

対して猫猫の目的は、自らの平穏を脅かす「面倒事」＝リスクを回避することです。

このコミュニケーションの断絶を経験したことで、壬氏は言葉で想いを伝えることの限界を悟り、より強引な「行動」で既成事実を作るしかないと覚悟を決めるに至ったのです。

嫉妬の爆発：壬氏の想いが溢れた衝動的なキス（小説5巻）

壬氏の想いが、もはやコントロール不可能なレベルに達していることを示しました。

壬氏の妻候補を選ぶための宴の席で、猫猫が他の男性と楽しげに踊る姿を目撃した壬氏は、猛烈な嫉妬心に駆られます。

その後、二人きりになった壬氏は「お前も候補の一人だ」という言葉と共に、猫猫が逃げられないよう強く抱きしめてキスをします。

これは彼の抑えきれない独占欲と愛情が爆発した瞬間であり、猫猫への想いが、他者の介在を許さないほどの激しい恋であることを内外に明確に示した出来事でした。

壬氏の覚悟：身分を超えた本気の求婚（小説7巻）

小説7巻、売り言葉に買い言葉のような状況の中、猫猫に「言いたいことははっきり言えばいい」と促された壬氏は「俺はおまえを妻にする」とついに明確な言葉でプロポーズをするのです。

これは半ば命令に近い形でしたが、壬氏は「どんな手を使ってでも、猫猫が納得したうえで結婚できる状況を作り上げる」と約束します。

この求婚は、壬氏が猫猫との関係を一時的なものではなく、生涯を共にするものとして捉えているという、彼の揺るぎない覚悟の表れでした。

猫猫の心の氷解：眠る壬氏への秘めたるキス（小説13巻）

数々の事件を共に乗り越える中で、猫猫の壬氏に対する感情は、当初の嫌悪や無関心から、徐々に信頼、そして明確な好意へと変化していきました。

多忙を極め、つかの間の休息をとる壬氏に対し、猫猫は自らの意志で、そっとキスをします。

！これは、彼女が長年築き上げてきた心の壁を自ら乗り越え、壬氏への想いを認めた記念的な瞬間です。

壬氏の一方通行だった恋が、ついに双方向の関係へと変わったことを示す、極めて重要なエピソードと言えるでしょう。

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徹底分析：二人の恋を阻む「じれったさ」の正体

二人の関係は数々の局面を経て進展してきたものの、その歩みは非常にゆっくりとしたものです。

最大の障壁：皇弟と花街の娘という絶望的な身分差

壬氏は皇帝の弟、すなわち皇弟という国の最高権力者の一人です。対する猫猫は、花街で生まれ育った薬師の娘、つまりは平民です。

この時代の社会通念上、彼らが正式に結ばれることは極めて困難であり、仮に結婚が許されたとしても、それは国家を揺るがしかねないほどの政治的波紋を呼ぶでしょう。

猫猫自身もこの身分差を痛いほど理解しており、壬氏のプライベートに深入りしないよう、常に意識的に一線を引いているのです。

猫猫の心理：恋愛への不信感と徹底した現実主義

花街での経験と、実の両親の悲劇的な関係性は、彼女に恋愛というものへの深い不信感を植え付けたのでしょう。

彼女は壬氏の天女のような美貌や甘い言葉に一切惑わされることなく、常に冷静かつ現実的な視点から物事を判断します。

この徹底した現実主義は、壬氏のロマンチックなアプローチをことごとく無効化し、彼の心を折る寸前まで追い込むことさえあります。

壬氏の不器用さ：好意が空回りする純粋すぎるアプローチ

これまで女性から言い寄られることはあっても、自ら誰かを必死に口説いた経験のない彼のアプローチは、非常に不器用で空回りしがちです。

猫猫のことが好きすぎるあまり、しばしば国の要人とは思えないほど幼稚な行動をします。

• 人前で名前を呼ぶことすらできなかったり
• 嫉妬心を隠せずに子供のような態度をとったり

この純粋さが彼の魅力であることは間違いありませんが、恋愛の駆け引きが日常であった花街育ちの猫猫から見れば、そのアプローチはまどろっこしく、時に滑稽にさえ映ってしまうのです。

逆転する力関係：壬氏をあしらう猫猫という特異な構図

身分制度上は壬氏が絶対的な上位者であるにもかかわらず、二人の実際のやり取りでは、力関係が逆転している場面が頻繁に見られます。

生活力、経済観念、そして人を見抜く力といった点では、猫猫が「坊ちゃん育ち」の壬氏を圧倒しています。

この身分を超えたフラットな関係性が二人の魅力の源泉であると同時に、主従関係や恋愛関係といった既存の枠組みに収まりにくくさせ、結果として関係の進展を遅らせる一因ともなっているのです。

関係に影響を与える外部要因：羅漢の影と後宮の陰謀

二人の関係は、彼ら自身の問題だけでなく、周囲の人間関係や社会情勢からも大きな影響を受けています。

父・羅漢の存在が猫猫に与えた影響と壬氏との関係への投影

猫猫の実父は、国の軍部を司る太尉にして「変人軍師」の異名を持つ漢羅漢です。

彼はかつて緑青館の妓女・鳳仙に執着し、結果的に彼女と、そして生まれた娘である猫猫の人生を大きく狂わせました。

猫猫はこの羅漢を父親とは認めず、「種馬」とまで言い切るほど嫌悪していますが、その複雑な感情は彼女の心に深く根ざしています。

羅漢は「高位の男性」であり、鳳仙という「花街の女性」に異常な執着を見せました。そして壬氏もまた「高位の男性（皇弟）」であり、猫猫という「花街育ちの女性」に異常な執着を見せています。

彼女は壬氏の行動の端々に、羅漢を彷彿とさせる「身分を笠に着た一方的な執着」の危険性を感じ取っている可能性があります。

猫猫が壬氏の求愛を「面倒事」として頑なに遠ざけるのは、壬氏を受け入れることが、自分が最も忌避する母親と同じ轍を踏むことにつながるという、深層心理的な恐怖があるからだと考えられます。

玉葉妃や他の妃たちの存在と、二人の関係を取り巻く宮廷の政治

そもそも壬氏が猫猫を玉葉妃付きの侍女にしたこと自体が、上級妃間のパワーバランスを考慮した政治的な判断でした。

壬氏が皇弟である以上、彼の結婚は個人の恋愛問題では決して済まされません。

それは国家の未来を左右する極めて政治的な行為であり、常に国家的な利害が絡みます。

猫猫が壬氏と結ばれるということは、彼女が望むと望まざるとにかかわらず、権力闘争の渦中に身を置くことを意味します。

これは、平穏な生活を何よりも望む彼女の現実主義的な性格とは、根本的に相容れない大きな障壁となっているのです。

今後の展開を考察：壬氏と猫猫は結婚できるのか？

数々の障壁を抱えながらも、二人の関係は確実に前進しています。では、彼らが最終的に結ばれ、結婚する可能性はあるのでしょうか。

皇位継承権の放棄？猫猫のために壬氏が示す覚悟

彼が帝位に就けば、世継ぎをもうけるために複数の妻を娶ることが義務付けられます。

そうなれば、猫猫一人だけを愛し続けることは困難になり、彼女を嫉妬や陰謀の危険に晒すことになります。

それを避けるため、壬氏は帝位を明確に拒否する姿勢を示しています。

彼の覚悟を最も象徴するのが、自らの脇腹に玉葉妃に仕える奴隷の焼き印を刻んだという常軌を逸した行動です。

これは、帝位への執着がないことを示す消えない証拠であると同時に、猫猫が抱く「壬氏と結ばれれば、恩義ある玉葉妃と敵対するかもしれない」という不安を払拭するための、究極の意思表示でした。

猫猫の心境の変化と「妻」になることへの現実味

当初は徹底して避けていた壬氏に対し、次第に安心感や好意を抱くようになり、ついに眠る彼に自らキスをするまでに至りました。

壬氏が皇族を抜けるという可能性が現実味を帯びてきたことで、二人の結婚はもはや夢物語ではなくなっています。

身分という最大の障害が取り除かれれば、猫猫も自身の幸福として、壬氏との将来を真剣に考え始めることは間違いないでしょう。

結論：二人が迎えるであろう「恋」の形

壬氏が皇族の身分を降り、猫猫もまた羅の一族の姫という立場を受け入れないことで二人は初めて身分や家柄といったあらゆる軛（くびき）から解放され、「ただの壬氏と猫猫」として対等な関係を築くことができます。

それは、互いの類稀なる才能と知識を尊重し合い、難事件を解決していく最高のパートナーとして、そして不器用ながらも互いを誰よりも深く想い合う唯一無二の存在として、共に生きていくという形になるのではないでしょうか。

この長く、どこまでも「じれったい」道のりの果てに、彼らだけが見つけ出すことのできる特別な「恋」の形が待っている。