【薬屋のひとりごと考察】猫猫×壬氏の「あーん」はただのイチャイチャではない?飛蝗の味が示唆する「相変異」と蝗害の恐怖

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アニメ『薬屋のひとりごと』において、多くの視聴者がニヤリとしたであろう、猫猫が壬氏に「あーん」と言いながら飛蝗(いなご/バッタ)の佃煮を食べさせるシーン。一見すると…

ソウカナ

イチャイチャするようになって嬉しいなぁ

そう言いたくなるような、壬氏をからかうラブコメ的描写に見えます。

しかし、背筋は凍るような自体を想起させました。なぜなら、美味しくない蝗の佃煮こそ国家転覆レベルの災害「蝗害」の前触れを科学的に証明しているからです。本記事では、単なる感想戦は行いません。

「なぜ飛蝗はスカスカになるのか?」

この問いに対し「相変異(Phase Polyphenism)」という生物学的メカニズムと、それ引き起こす化学物質の正体について、ロジカルに解説していきます。

目次

『薬屋のひとりごと』における「あーん」の真意と飛蝗の描写

問題のシーンは、猫猫が壬氏に対して、半分嫌がらせ、半分優しさ(?)で、乾燥した飛蝗の甘露煮を口に運ぶ場面です。小説版でも人気の高いこの「あーん」ですが、ここで重要なのは二人の関係性ではありません。

後宮で表情をいつも作っていた壬氏が酷く顔を歪めてしまうほどに美味しくないイナゴなのです。

通常、食用とされるイナゴやバッタは、冬に備えて脂肪を蓄えているはずです。しかし、壬氏や猫猫たちが食べたイナゴの佃煮は、まるで栄養が欠落した抜け殻のようでした。実はこの「不味さ」こそが、生物学における「相変異(そうへんい)」の証拠であり、作中の国を揺るがす大飢饉の予兆となっていたのです。

「飛蝗」がスカスカになる科学的メカニズム

なぜ、同じ種類のバッタでも「身が詰まっている個体」と「スカスカな個体」が存在するのでしょうか?
ここには、環境に応答して遺伝子の発現が変わる、興味深い生物学的スイッチが存在します。

孤独相(Solitary)と群生相(Gregarious)の違い

バッタ類(サバクトビバッタやトノサマバッタ)には、大きく分けて二つのモードが存在します。

  • 孤独相(Solitary phase): 通常の個体。緑色で、動きは穏やか。単独行動を好み、生殖と栄養備蓄にエネルギーを使うため、太っていて美味しい。
  • 群生相(Gregarious phase): 集団行動モード。黒や褐色に変色し、攻撃的になる。長距離飛行に適した体に作り変えられるため、筋肉質で脂肪が少なく、不味い。

猫猫が食べた「スカスカの飛蝗」は、間違いなく後者の「群生相」に変異した個体、あるいはその過渡期(転移相)にある個体でしょう。

セロトニンが引き起こす「暴走モード」への変身

では、何がスイッチとなってこの変異が起きるのでしょうか。
研究によると、バッタ同士が過密状態になり、互いの脚が物理的に接触し続ける刺激がトリガーとなります。この物理刺激により、脳内の神経伝達物質であるセロトニン(Serotonin, C10H12}N2O)の濃度が一気に上昇します。

わかりやすく例えるなら、「満員電車で押し合いへし合いされたストレスで、脳内物質がドバっと出て、性格がバーサーカー(狂戦士)に変わる」ようなものです。

このセロトニン・スパイクにより、わずか数時間〜数世代のうちに、彼らは「食べて太る」モードから「群れて移動し、全てを食い尽くす」モードへと、体の設計図を書き換えてしまうのです。

化学的視点で見る「黒い飛蝗」の危険性

猫猫が「あーん」で食べさせた飛蝗が「スカスカ」だったのは、彼らがエネルギーの使い道を「脂肪蓄積」から「飛翔能力」へ全振りしたからに他なりません。

エネルギー配分と毒性の獲得

化学的視点で見ると、これは「リソース配分の最適化」です。
群生相となったバッタは、長距離移動に耐えるため、代謝を変化させます。具体的には、重りとなる脂肪を削ぎ落とし、外骨格を強化し、羽を長くします。エンジニアの方なら、「積載量を犠牲にして、航続距離と耐久性を極限まで上げた戦闘機」を想像してもらうとわかりやすいでしょう。当然、食用としての歩留まり(肉の量)は最悪になります。

さらに恐ろしいのは、群生相のバッタは、捕食者から身を守るために体内に毒素を溜め込むケースがあることです。
種類によっては、フェニルアセトニトリル(Phenylacetonitrile) という物質を合成・放出し始めます。これは、群れを維持する集合フェロモンとしての役割と同時に、外敵に対して「私は不味いし毒があるぞ」と警告するシグナルでもあります。

猫猫が感じた「不味さ」は、単に肉が少ないだけでなく、こうした化学物質による警告味(Aposematism)が含まれていた可能性が高いと推測できます。

まとめ:猫猫の、いや人間の舌は高性能な分析機器である

猫猫による壬氏への「あーん」は、単なるファンサービスではありません。
このシーンは「高密度環境下におけるセロトニン誘発性の相変異個体」を猫猫たち一行が味覚で検知し、未曾有の蝗害(Locust Plague)が迫っていることを読者に暗示する、極めてロジカルな伏線だったと言えます。

「味が変だ」「身がない」という官能評価から、生態系の異常を示唆する。これこそが「薬屋のひとりごと」という物語の真骨頂ではないでしょうか。


【さらに深く知りたい方へ】

アニメなどでは尺の都合上、蝗害への対策やより詳細な「薬」や「毒」の精製プロセスが一部省略されるとおもわれます。
原作小説では、猫猫の思考プロセスがより詳細に、化学実験のレシピのように描かれています。「あのシーンの裏で、具体的にどんな知識が使われていたのか?」と知的好奇心が疼く方は、ぜひ原作小説で補完してみてください。

文庫版で、猫猫の「脳内実験ノート」を覗いてみる

薬屋のひとりごと小説・全巻
ポゥさん

2025年10月現在小説は16巻まで出ています

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